妊婦・授乳婦の栄養と健康管理

妊婦、授乳婦の栄養は、母体の健康維持のみならず、胎児の発育、分娩、乳児の発育を含めた重要な役割があります。母体栄養状態の良し悪しが妊娠の経過や結果に大きく影響を及ぼします。

母性栄養の特徴
妊娠期間中に約3kgの胎児が新生される。
胎児の体内に鉄やビタミンの一定量が貯蔵される。
胎児の発育をはじめとし、母体の乳腺の発育、至急の増大、血液の増加がみられ、10ヶ月で約8kg~11kgの体重が増加します。
分娩に際しての体力の備えと、出産時の出血による貧血の早期回復。
乳汁分泌量の保持。

妊婦の栄養

妊婦のつわり

つわりは妊娠6週間頃に始まり、多くの妊婦に嗜好の変化、食欲不振、嘔吐、胃腸障害などの症状が現れますが、妊娠4ヶ月頃には概ね回復します。妊婦は心理的因子や環境の影響を受けやすいので心身の安静を保つように心がけます。

つわりの時期の食事方針
1度に多くの量を食べると嘔吐の原因となるので、1回の食事量は少なくし、回数を多くするようにします。
空腹時につわりの症状が出やすいので、小さなおにぎりやクラッカーなどをいつでも食べられるように用意します。
嘔吐が激しい時は、体内から水分やミネラルが失われるので、お茶や牛乳、果物などで十分に補給します。
妊娠中は便秘になりやすくなりますが、便秘はつわりの症状を悪化させるので、食物繊維の多い食品や水分を多くとるように心がけます。
酸味のある果物、酢の物などが悪心を柔らげ、ビタミンCの供給源としても優れているので、献立に盛り込むようにします。
匂いに対して敏感になるため、匂いの強い物は控えます。温かい物よりも冷たい物の方が匂いを感じにくくなります。
つわりが回復したら、質・量共にバランスのよい日常食に切り替えます。

妊娠中の食事摂取方針

妊娠中に最も気を付けなければならない、妊娠貧血と妊娠中毒症を回避するための食事摂取方針を説明します。

妊娠貧血
妊娠中は、母体も胎児も著しく鉄の需要が多くなるため、鉄欠乏症になりやすい状態です。重度の妊娠貧血は妊娠中毒症に罹りやすく、分娩時の多量出血につながります。産褥期(分娩後、母体が妊娠前の状態に回復するまでの期間)の回復が遅れたり、胎児の発育に悪影響を与えやすいので食事に注意を払う必要があります。鉄含有量の多い食品(特に動物性食品に多いヘム鉄)を摂ると共に、ビタミンC、たんぱく質も十分に摂取するようにします。自覚症状として、めまい、動悸、息切れ、目の結膜や口唇、爪などが白っぽくなるなどの症状が現れた時は、かなり重度な貧血の場合が多いので、速やかに検診を受ける必要があります。
妊娠中毒症
妊娠7ヶ月~8ヶ月頃から分娩時にかけて起こる場合が多く、主な症状は、高血圧、たんぱく尿、浮腫です。前駆兆候としては立ちくらみ、頭重、体重の急増などで、妊娠8ヶ月頃の体重が1週間に0.5kg以上急増した場合には注意が必要です。また、高血圧、腎臓病、糖尿病などにかかっている人や太り過ぎの人、多胎妊娠、ストレス、睡眠不足など不規則な生活をしている人、前回の妊娠で妊娠中毒症を起こしている人は要注意です。
  • 低エネルギー、低塩、高たんぱく食が原則です。
  • 食塩は1日7g以下、重症の場合は1日3g~5gに制限されるので、塩分の使い方を工夫します。
  • 妊娠中毒症の予防・治療には食事療法と共に、十分な休息と睡眠の確保、精神的な安静が必要です。

※一般的には妊婦の栄養状態がよいほど、妊娠中毒症の罹患リスクは低くなります。

妊娠中の食事摂取方針
エネルギーはとり過ぎないようにして肥満を防ぐようにします。
良質のたんぱく質を食品を偏らないように組み合わせて十分摂取するようにします。
脂肪は必須脂肪酸を多く含むものを摂取するよう心がけます。
カルシウムの摂取は、特に配慮する必要があり、1日2300mgを上限として摂取目標量となる600~700mgとカルシウム吸収を補助するビタミンDも一緒に摂取します。
鉄は、1日40mgを上限に24mgを目標に十分摂取する必要があります。
ビタミンは偏らないようにバランスよく摂取できるように心がけます。
食事は塩分を控え、薄味にして妊娠中毒症への移行防止に努めます。
野菜や果物を十分に摂って便秘を防ぐようにします。ビタミン・ミネラルの食事摂取基準を満たし、下痢や便秘をしないよう注意します。

授乳婦の栄養

授乳婦の食事摂取方針

授乳婦は、新生児の発育に十分乳汁を分泌する必要があり、乳汁中のエネルギーと授乳に伴う労働の増加分を加えたエネルギーを摂る必要があります。しかし、授乳期間の短い母親や人工栄養の増加で、妊娠中に蓄積した脂肪を消費しきれず、分娩後の体重増加で肥満になる人が増えているため、エネルギー摂取には細心の注意が必要です。たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミンの摂取はもちろんですが、特に摂取に注意したいのがカルシウムと鉄です。カルシウムは、母体の平衡維持量の他に乳汁に移行する量を加えた1日1100mgが必要になります。鉄は、母体の鉄の損失の他に、分娩に伴う出血による鉄の損失を補います。母体や胎児の造血のため、妊娠中は特に鉄が不足し、母乳への鉄の分泌量を考慮すると1日24mgが必要と考えられます。

乳汁分泌をよくするための注意点

ポイント
良質のたんぱく質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル(特にカルシウムと鉄)をバランスよく十分に摂ります。
乳汁分泌量に相当するだけの水分を補給します。(母乳の88%は水分で、水分不足は母乳の出を悪くするので牛乳、果物、果汁、汁物などで必要量を満たすように心がけます。)
精神的に安定した生活状態を保つようにし、十分睡眠を取るようにします。
乳房を空にする必要があります。乳児によく吸わせて乳房を空にすると、乳腺が刺激されて乳汁分泌が促進されます。