食欲について

食欲とは、生物が食物の摂取、エネルギー消費、排泄という生理作用を円滑に営み、生命を維持するための本能的食欲と視覚、味覚、触覚、臭覚、聴覚など感覚器からの刺激によって生じる精神的食欲があります。それらの食への欲求が低下、消失した状態を食欲不振といいます。


栄養感覚と食欲

食欲中枢と食欲が起こる要因

食物を摂取するのは空腹感と満腹感のバランスによるものであり、大脳の視床下部にある食欲中枢(摂食中枢と満腹中枢)によってコントロールされています。人間の食欲全体を制御している最高司令塔は、満腹中枢や摂食中枢がある大脳の視床下部よりも更に上の大脳皮質の前頭葉に存在し、人間の精神や思考、情緒など極めて高次元な精神活動を営んでいる部位にあります。前頭葉には視覚、味覚、触覚、臭覚、聴覚など重要な情報を伝える神経のネットワークが形成されていますが、食欲が大きく影響されるのは、この神経ネットワークの働きです。精神ネットワークの影響を受け、精神的に不安定なときに、やけ食いや気晴らし食いによって欲求不満を解消したり、食欲が減退することもあります。

精神的刺激で起こる食欲

胃の収縮による空腹感
胃内が空の状態で時間が経過すると、胃は収縮を起こします。この収縮を飢餓収縮といいますが、これが起こると迷走神経を通して摂食中枢に伝えられて空腹感を感じます。
胃の伸張による満腹感
食物を十分に摂ると、分泌された胃液によって胃が伸張され、この刺激が迷走神経を通して満腹中枢に伝えられて摂食中枢を抑制します。しかし胃を切除したり迷走神経が切断されていても満腹感が起こることから、胃の伸張だけが基本的な要因とはいえません。

科学的刺激で起こる食欲

空腹や満腹に伴う血液中の化学物質(糖や脂質など)に関連していろいろなホルモンが影響しています。

血糖値
食事によって体内にブドウ糖が吸収されると血糖値が上昇します。このブドウ糖の刺激により満腹中枢が興奮すると満腹感を覚えます。更に満腹中枢から「十分なエネルギーが摂取された」という情報が体内に伝えられ、エネルギーの補給活動を停止するようになります。
血中遊離脂肪酸量
体内のエネルギーが消費されると血糖値が低下し、皮下に蓄えられた脂肪を分解してエネルギーを作り出します。蓄積された脂肪を分解するときに出来るのが遊離脂肪酸といいます。血液中の遊離脂肪酸量が増加し、この遊離脂肪酸の刺激により摂食中枢が興奮すると空腹感を覚えます。更に摂食中枢から「エネルギーが不足している」という情報が体内に伝えられ、エネルギーの補給活動を促すようになります。
インスリン
ブドウ糖の利用を促進するホルモンで、ブドウ糖の濃度の変化から摂食中枢、満腹中枢の双方に、間接的に働くだけでなく、直接的にも作用します。
エストロゲン
女性ホルモンの一種で、排卵前に食事の量が減少することから、女性の性周期と食事摂取量の間に関連があることが分かっています。

物理的刺激で起こる食欲

皮膚が冷気にふれると、その刺激か摂食中枢に伝わり、食欲が増進します。これは寒さに対する抵抗力をつけようという本能と考えられます。”食欲の秋”といわれるように暑い夏から肌寒い秋に入ると、夏に比べて食欲が増進してくるのはこのためです。摂食中枢は血液の温度が低下しても興奮しますが、逆に体温と気温の上昇した状況では抑制されて、食欲は減退します。これは暑い夏場に多くみられる現象でいわゆる夏バテと呼ばれるものです。

心理的刺激で起こる食欲

食欲は食物に対する過去の経験的発想や情緒、感情によって左右され、具体的には目で見た物(視覚)、匂い(臭覚)、音(聴覚)などで、その時の気分によりお腹がすいていなくても食欲が出たり、何も食べていなくても食欲がなかったりすることがあります。お腹いっぱいの状態でも好きな物なら食べられるという状態を表現する別腹という言葉があります。

視覚
人間には視覚的に捕らえた美しい物を好む自然な情緒があるため、料理の色や形、食器などを美しく整えることが大切です。
臭覚
臭覚の感じ方には個人差があり、通常の感覚では嫌な匂いであっても、その匂いから個々の嗜好により美味しい味を連想した時は、食欲を増す方に働きます。※くさやの匂いなど
聴覚
音楽が食欲に影響があるという説があります。また、美味しい料理を作っているということを連想させるような包丁の音なども食欲に関係します。

食欲不振

一般的に病気になると食欲不振になり、食欲の有無が病気の状態の良し悪しの目安になります。

食欲不振の種類
生理的食欲不振: 食べ過ぎ、運動不足、過労、不眠によるもの
心理的食欲不振: 悩みごとのある時、ひどく驚いた時など
器質的食欲不振: 臓器の疾病、異常等により引き起こされるもの

食欲不振の対応方法

おかしいと思ったら病院にいくなど早めの対処が肝心です。発熱時は全身機能の低下による食欲不振、感染症の場合は細菌からの毒性物質が胃に働くことによる食欲不振が考えられ、薬の副作用による食欲不振も多くみられるようです。酒類の飲み過ぎ、煙草の吸い過ぎ、嗜好飲料(缶コーヒーなど)の飲み過ぎも食欲不振の原因となります。貧血やビタミン欠乏症(特にビタミンB群)では食欲不振がみられ、栄養不足によるものと考えられます。神経因子としては、若い女性に多くみられる神経性食欲不振症(拒食症)が挙げられ、極度の痩せ、無月経、脱毛、体温低下を生じて死亡することもあります。これらは、精神的、情緒的なものが原因とされています。